クリニック経営において、人件費は最も大きな固定費の一つであり、多くのクリニック経営者が頭を悩ませる問題です。「人件費の適正な割合は?」「どのように人件費を管理すれば良いのか?」といった疑問を持つ人も多いのではないでしょうか。
本記事では、クリニックにおける人件費の相場や、人件費削減の方法を詳しく解説します。この記事を読むことで、人件費削減の具体的な施策が分かり、スタッフのモチベーションを維持しながら、企業の収益性を高められるでしょう。
クリニックにおける人件費とは
クリニックにおける人件費とは、医業収益(売上)に対するスタッフ給与や関連費用の割合を指します。人件費には基本給や賞与、退職金のほか、法定福利費、福利厚生費、通勤費、社宅費用なども含まれます。
クリニックが安定して運営させるためには、人件費の適正な管理・調整が必要不可欠です。過剰な人件費を避け、適切な人件費の配分を行うことで優秀な人材を確保しつつ、医療サービスの質の向上につながるでしょう。
クリニックの人件費率の適正は?
一般的に、クリニックの人件費率の目安は月間売上の20~25%程度とされています。ただし、クリニックの規模や診療所の形態によって異なるため、一律に判断はできません。
たとえば、院内処方の無床クリニックでは15~20%程度、院外処方の無床クリニックでは20~30%程度が一般的な適正値とされています。
人件費が高すぎると経営が圧迫され、低すぎると優秀なスタッフの確保が難しくなり、サービスの質に影響を及ぼします。そのため、適切な人件費の配分を維持することが大切です。
データで分かるクリニックの人件費率の相場
人件費率の目安を理解したうえで、実際のデータに基づく比較も重要です。ここでは、個人クリニックと医療法人クリニックの人件費率の相場を紹介します。
個人クリニックの場合
厚生労働省が令和5年に実施した医療経済実態調査では、個人クリニック(入院診療収益なし)の人件費率は前年度で24.6%、前々年度では25.4%と報告されています。つまり、売上の約1/4が人件費に充てられていることになります。
ただし、季節的な変動や繁忙期など、一時的な支出の増減に左右されることがあるため、各四半期や月ごとの変動幅を詳細に分析し、その要因を特定することが重要です。
特定した要因を考慮し、全体として人件費が20〜25%の範囲に収まるように管理することが望ましいでしょう。
医療法人クリニックの場合
入院診療収益なしの医療法人クリニックの人件費率は49%と、個人クリニックと比べて高い水準です。法人クリニックはスタッフの人数が多く、組織全体で給与管理が必要なため、累積的に人件費が増加する傾向があります。
加えて法人クリニックは規模が大きいため、医療スタッフに加え、運営に関わる管理職や事務職員も雇用する必要があり、これらが人件費率を押し上げる要因となっています。
クリニックの人件費を抑える方法
クリニック経営において、人件費は大きなコスト要因です。しかし、適切なコスト管理を行えば、人件費を抑えつつ、質の高い医療サービスを提供することが可能です。ここでは、クリニックが人件費を削減するための具体的な方法を紹介します。
アウトソーシングを活用する
クリニックの業務の一部をアウトソーシングすることは、効果的な人件費削減方法の一つです。たとえば、清掃や経理、受付業務などの定型業務を外部に委託することで、正社員やパートスタッフの雇用を抑えられます。結果として、雇用に伴う教育コストや社会保険料の負担も軽減できます。
アウトソーシングにより、スタッフが本来の医療業務に集中できるようになれば、患者満足度の向上にもつながるでしょう。
パート・アルバイトを雇用する
クリニックの人件費を抑えるためには、正社員にこだわらず、パート・アルバイトを活用するのも有効です。正社員に比べて勤務時間が短いため、フルタイムを必要としない業務に適しています。
また、パート・アルバイト雇用は、正職員にかかる社会保険料や福利厚生費などの負担を軽減できるメリットもあります。たとえば、正職員1人をフルタイムで雇う代わりに、パート2人に分割して仕事を任せることで、1人あたりの勤務時間を短く抑えられ、社会保険料を削減できます。人件費を抑えつつ人手も増やせるため、柔軟なシフト管理を実現できるでしょう。
ITツールを導入する
クリニックの業務効率を大幅に向上させる方法の一つが、ITツールの導入です。たとえば、予約管理システムや電子カルテを導入することで、少人数のスタッフでも効率よく業務を遂行できます。
患者がオンラインで予約できるシステムを導入すれば、受付業務の負担を大幅に減らすことが可能です。電子カルテを導入すれば、患者情報の管理を簡略化し、ペーパーレス化にも寄与します。このように、業務負担が軽減されれば、必要な人員も最小限に抑えられるでしょう。
受付業務の効率化には「オンライン診療」の導入がおすすめです。患者がオンラインで予約を行うため、受付スタッフによる手作業が減り、受付業務が自動化されます。受付スタッフの数を減らすことができ、結果として人件費の削減につながるでしょう。
「march」は、受付業務の自動化と事務作業の効率化により、人件費の削減に貢献するオンライン診療システムです。予約から事前問診、オンライン診療、決済、処方薬の配送まで一括で管理できます。人件費に頭を抱える経営者の方は、ぜひmarchをご検討ください。
クリニックで人件費対策を実施する際の注意点
人件費対策は重要ですが、誤った対策はクリニックの運営に悪影響を及ぼす可能性があります。ここでは、人件費対策を実施する際に注意すべきポイントを解説します。
人件費削減は最終手段とする
安易な人件費削減は、スタッフのモチベーション低下や離職を招き、結果的に医療サービスの質が低下する可能性があります。特に医療業界では人手不足が深刻なため、スタッフの流出は大きな打撃となり得ます。
会社が人件費削減を実施した際、従業員は表面上には理解を示すかもしれません。しかし、内心では「自分の給料が減ってしまう」「将来が不安だ」といった不満を抱え、退職を決意する可能性も否めません。
よって人件費削減はあくまでも最終手段とし、まずは他のコスト削減や業務効率化を検討することが重要です。
法令や労働条件の違反に注意する
人件費を削減する際には、労働基準法や労働関連法令を必ず守る必要があります。違法な賃金引き下げや残業代の未払いは、法的リスクを高め、トラブルの原因となります。
たとえば、基本給を最低賃金以下に引き下げたり、残業代の支払いを不適切に行ったりすることは重大な法令違反です。また、賃金カットや配置転換も、労働者の同意を得ずに一方的に実施すると違法行為に該当する恐れがあります。
そのため、労働者の権利を守ることを前提に人件費対策を行うことが、健全な経営のために欠かせないポイントです。
昇給はインセンティブを導入する
昇給は、スタッフのモチベーション向上に重要ですが、固定給の昇給が続くと人件費が増大し、長期的な経営負担になります
そのため、貢献度や成果に応じたインセンティブや変動報酬を取り入れることが効果的です。貢献度や成果に基づいた報酬体系を導入することで、従業員は自身の努力が報酬に直接結びつくことを実感し、より高いモチベーションで業務に取り組むようになるでしょう。また、企業にとっても、人件費の効率化を図りながら、優秀な人材の確保と育成につなげられます。
患者満足度や医療の質、チームワークなど評価する項目を具体的に定義し、最適な制度を構築していくことが、企業の持続的な成長に不可欠です。
まとめ
人件費の最適化は、クリニック経営の安定に欠かせない要素です。スタッフの働きやすさやモチベーションも考慮しながら、適切なコスト管理を実践していくことが、成功のカギとなります。
業務の効率化を図るためには、ITツールの導入、人員配置の最適化、パートタイムやアルバイトの活用などがあります。これらの施策を組み合わせることで、人件費の削減だけでなく、スタッフの負担軽減や生産性の向上も期待できます。本記事の内容を踏まえ、ぜひ一度、人件費の見直しから始めてみてください。
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この記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属