慢性的な人手不足に頭を抱えるクリニックも多いのではないでしょうか。厚生労働省の調査によると、令和4年の医療・福祉業界の離職率は15%を超えており、他業界の平均よりも高い傾向にあるのが事実です。
人手不足に陥る原因は、日本の高齢化社会の影響もありますが、クリニックの体制の見直しなどにより解消につなげられます。本記事では、クリニックが人手不足に陥る原因や、人手不足がもたらす影響について紹介します。 解決策も紹介しているので、人手不足に悩む方はぜひ参考にしてください。
医療スタッフの離職率は高い?
医療・福祉分野における離職率は、他の業種と比較すると高い傾向にあります。
令和4年の医療・福祉業界全体の離職率は15.3%と、入職者率の14.4%を上回っていることから、慢性的な人手不足が懸念される業界といえるでしょう。
なかでも看護師の離職率は10〜20%となり、公立病院よりも医療法人の離職率が高くなっています。 医療従事者の離職率が高くなる背景には、夜勤などの長時間労働や、それに伴う過酷な労働環境があると考えられています。
離職者が増え続けることで、現職の医療従事者の業務負担はさらに増すという悪循環が発生します。慢性的な人手不足を解消するには、クリニック内の業務改善や体制の見直しが急務といえるでしょう。
クリニックが人手不足に陥る原因
人手不足を解消するには、離職者を増やしている根本的な原因から理解することが大切です。ここでは、医療クリニックが人手不足に陥る原因を3つ解説します。
少子高齢化の問題
少子高齢化の加速により、医療を受ける側と提供する側のバランスが崩れて、医療従事者側の業務負担が増加しています。
日本の総人口数は減少の一途を辿っており、2040年には「65歳以上の占める割合が全体の35%になる」と推計されています。さらに、2070年には総人口数が9,000万人を割り込む見込みとなり、高齢化は深刻化の一途を辿っています。
出生数は年々減少しており、令和4年度の出生数は「明治32年の調査開始以来最少」となっています。 少子化の影響で労働人口が減少傾向にあり、若い医師や看護師などの確保が難しくなっていることも、クリニックの人手不足を慢性化させている要因の1つでしょう。
過酷な労働環境
過酷な労働環境も、クリニックが慢性的な人手不足になる原因の1つです。残業や休日出勤の多さや、シフト勤務による労働時間の不規則さなどが、医療スタッフの心身に大きな負担をかけてしまいます。
また、「休暇が取りにくい」「本来の業務とは異なる作業が発生する」といった状況が医療スタッフのモチベーション低下を引き起こし、人手不足が深刻化しているケースも見受けられます。
適度な休暇も取れず、心身が疲弊している状態では医療事故につながるリスクが高くなるため、早期に解決することが重要です。
人間関係の悩み
多くのクリニックでは、医師・看護師・事務スタッフで構成されており、それぞれ待遇面や業務量に大きな差があることから、不平不満が出やすい傾向にあります。
さらに、10名以下の少人数で構成されていることが多いため、苦手だと感じるスタッフの行動が目につきやすい側面もあります。そのため、クリニック内で一度関係が悪化すると修復が難しくなり、トラブルになったスタッフのどちらかが退職することも珍しくありません。
クリニックに与える人手不足の影響
人手不足の状況が続くと、深刻な問題を招きます。ここでは、人手不足のクリニックが陥りやすい悪影響を4つ解説します。
医療ミスや事故が増える
短期的な人手不足であれば、新たなスタッフを採用することで、労働環境が整っていくでしょう。しかし、慢性的な人手不足を抱えている場合は、要注意です。
慢性的な人手不足が続くと、スタッフ1人あたりの業務量が増大します。業務量が増えることで、本来やるべき業務に手が回らなくなるうえ、残業や休日出勤など過重労働の原因にもなりかねません。過重労働が続き、心身ともに疲労を抱えたスタッフが医療行為に関わることで、本来起こるはずのない事故や医療ミスにつながる可能性が高くなるでしょう。
少しの事故やミスであっても、患者の命や健康に影響を及ぼす場合があります。人手不足が慢性化しているクリニックは、人材採用と並行しながら、スタッフの業務効率化を図るなどして早急に対策する必要があるでしょう。
患者への対応が雑になる
人手不足によってスタッフ1人あたりの業務量が増えることで、スタッフは常に業務に追われます。業務を終わらせることに必死になることで、患者に寄り添った対応がしにくくなるうえ、対応が疎かになる可能性も高くなるでしょう。
スタッフの対応が雑だと感じた患者は、不安や不満を持ちやすくなり、クリニックへの不信感が高まります。このような状況が続くと、患者からのクレームが発生しやすくなり、スタッフのストレスがさらに高まるという悪循環に陥ってしまうでしょう。
患者への対応の様子に違和感を感じる場合は、スタッフへの待遇改善やクリニックの体制強化に努めましょう。
スタッフ同士が険悪になる
人手不足による弊害は、スタッフ同士の関係性に影響を及ぼすことがあります。
人手不足で業務量が増えると、自身の業務で手一杯となるため、互いにサポートし合うことも、業務以外でスタッフ同士がコミュニケーションを取り合う機会も減るでしょう。
緊張状態が続くことで、心身が疲弊して精神的不安定に陥りやすくなります。普段は穏やかな人柄でも、精神的に不安定になると感情的になりやすくなり、職場内での衝突が起きやすくなるでしょう。
また、業務の押し付け合いなどでピリピリとした雰囲気が漂うため、若手のスタッフは居心地の悪さを感じて、離職につながりやすくなってしまいます。
クリニックの評判が悪くなる
人手不足でスタッフ1人あたりの業務負担が増大すると、患者への対応が疎かになり、スタッフ同士の関係性が悪化して、クリニック全体の雰囲気が悪くなります。常にピリピリとした空気が漂うことで、スタッフだけでなく患者も居心地の悪さを感じてしまうでしょう。
さらに、スタッフ間で適切なコミュニケーションが取れていないと、業務に支障が出始めて、患者は不安を抱えるようになります。クリニックへの不信感が強くなることで、スタッフの対応の悪さや、医療の質に疑問を感じる患者が増えて、クリニックの評判を落とすことになりかねません。さらに、インターネット上に悪い口コミが増えることも予想されます。
人手不足による問題が表面化し始めているクリニックは、できるだけ早く問題解決に向けて対応しましょう。
クリニックにおける人手不足の解決策
クリニックの人手不足には、日本の少子高齢化なども影響しているため、すぐに解消するのは難しい側面もあるでしょう。とはいえ、待遇の見直しや環境整備、IT化を進めることで人手不足の解決につながる場合があります。
それぞれの解決策について詳しく解説していきます。
医療従事者の待遇を見直す
人手不足が慢性化し始めたら、一度待遇の見直しを行いましょう。待遇の見直すことで、現場で働くスタッフのモチベーションアップにつながります。
人手不足で長時間労働が増えている場合は、一時的にボーナスを支給したり、夜勤や残業手当を見直すことで、医療スタッフの不満解消につながるでしょう。
賃金アップが難しい場合は、自治体の助成金や補助金などを活用してみるのもおすすめです。
ワークライフバランスを整備する
医療従事者は残業や休日出勤、夜勤などが多いため、ワークライフバランスが取りにくい課題があります。
看護職員を対象に行った離職理由の調査によると、20代でもっとも多かった回答は「自分の健康や精神的理由」、30代以降では「結婚・出産・育児や、親族の介護などライフスタイルの大きな変化による理由」が上位を占めています。
女性は結婚や出産など、ライフスタイルの変化によって仕事とプライベートのバランスが取りにくくなり、結果として離職してしまうケースが多く見受けられます。このような状況を改善するためには、スタッフのライフスタイルを考慮したサポート体制を強化することが大切です。
例えば、未就学児を抱えたスタッフであれば、夜勤を極力減らして平日中心のシフトを組んだり、介護をしているスタッフであれば、介護休暇を設けたりすることもおすすめです。
ワークライフバランスを考慮した体制を整えることで、長期的に働きやすい環境となり、スタッフの離職率を抑えることにつながります。
IT化でスタッフの業務負担を減らす
IT化の推進による業務効率化も、人手不足の解消につながります。
IT化のメリットは、業務の大幅な効率化により、スタッフが本来の業務に専念でき、結果として質の高い医療サービスを提供できる体制が整うことです。
業務がスリム化することで、スタッフに余裕が生まれて、スタッフ同士の人間関係の改善や、クリニックの雰囲気の改善などにつながるでしょう。
IT化に向いている業務内容は、診察予約やオンライン診療などが挙げられます。従来の診察予約では、電話で患者1人ひとりの日程を調整する必要があるため、日程ミスなどにつながりやすい懸念がありました。
しかし、診察予約をIT化すると、患者がアプリやWeb上で自由に診察を予約できるようになります。さらに問診票もデジタル化することで、来院前の事前問診が可能になります。診察当日は問診票の記入時間が省かれるので、院内の混雑緩和につながるでしょう。
オンライン診療導入のメリットには、受付対応業務の削減や診療時間の短縮などが挙げられます。患者に寄り添う時間が増えるので、結果として患者満足度にもつながるでしょう。
「march」は、医療機関と共同開発したヘルス事業特化型のオールインワン型のプラットフォームです。予約・問診・オンライン診察・決済・処方薬配送まで、すべて一元管理できます。人手不足解消に向けて業務効率化を検討している方は、ぜひ検討してみてください。
まとめ
クリニックの慢性的な人手不足を解消するには、労働環境の見直しや人間関係の改善、業務効率化に取り組む必要があります。オンライン診療や電子カルテの導入により、業務効率化を図ることで、スタッフが本来の業務に従事しやすい環境を整えられるでしょう。
また、働くスタッフの待遇や、ワークライフバランスに考慮した体制作りも不可欠です。サポート体制を充実させることで、ライフスタイルの変化による離職を避け、長期にわたって在職しやすい環境となるでしょう。慢性的な人手不足の解消に向けて、まずは小規模なところから始めていきましょう。
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この記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属