開業医は勤務医と比較して高年収が見込めるため、クリニック開業に踏み切る医師も少なくありません。しかし、開業後に順調に軌道に乗せるのは容易ではなく、数多くの失敗例も報告されています。
本記事では、クリニック開業の失敗例を具体的に紹介するとともに、成功するためのポイントについても詳しく解説します。これから開業を考えている医師の皆様にとって、役立つ情報を提供しますので、ぜひ最後までお読みください。
クリニック開業の失敗例5選
クリニックを開業する前に、先人たちから学ぶために失敗例を見ていきましょう。失敗例がわかれば、同じ轍を踏むことなく開業できます。
クリニック開業の具体的な失敗例としては、次の5つです。
経営資金が不足した
設備への過剰投資で失敗した
集患対策が不十分だった
立地や物件の選択に失敗した
適切な採用ができていない
1.経営資金が不足した
クリニック開業の失敗例として、経営資金の不足、つまり資金繰りの失敗があります。十分な資金を確保できていない状態で開業してしまうと、予期しない出費に対応できなくなり、資金ショートを招く恐れがあるのです。
例えば、開業後すぐに設備修理や追加購入が必要になったり、思ったよりも患者数が増えず収入が安定しなかったりすることがあります。このように不測の事態が重なっては、黒字でも倒産の憂き目に遭ってしまいかねません。
開業後に資金不足に陥らないようにするには、半年から1年分の家賃・光熱費・人件費などを事前に準備しておくことが必要です。資金が豊富であればあるほど、資金不足による経営の行き詰まりを防ぎ、安定した経営につながります。
2.設備への過剰投資で失敗した
クリニック開業の失敗例として、設備への過剰投資があります。特に開業時は「すぐに理想の医療空間を実現したい」という気持ちが先行し、最新設備を必要以上に購入しがちです。
確かに最新設備は、医療サービスの向上に不可欠な存在です。加えて「最新設備を導入!」と宣伝できるため、患者のニーズと合致していれば、集患に効果的な場合があります。ところが、いくら質が高い最新設備とはいえ、稼働率が低い医療機器ばかり揃えると、経営を圧迫する要因となります。
さらに、過剰な設備投資は院内のスペースを圧迫し、待合室や診療室を狭めることになりかねません。
最新設備の導入は、開業時ではなく黒字になってからでも遅くはありません。開業後は軌道に乗せることを優先し、黒字化したタイミングで最新設備を導入することが重要です。
3.集患対策が不十分だった
クリニック開業の失敗例として、集患対策が不十分だったケースがあります。どれだけ優れた医療サービスを提供できるとしても、患者がクリニックの存在を知らなければ足を運んでくれません。
厚生労働省が発表した「令和2(2020)年受療行動調査」によると、外来患者が医療機関を選ぶ際に最も多く情報を入手する手段は「家族・友人・知人の口コミ」で71.1%でした。次いで「医療機関が発信するインターネットの情報」が24.4%となっています 。
したがって、実際に利用した患者の口コミや、ホームページ・SNSなどインターネットを活用した集患対策が有効といえます。
開業前にどのような集患対策を実施するか、きちんと検討しておきましょう。
4.立地や物件の選択に失敗した
クリニック開業の成否を分けるのが、立地や物件選びです。いくら優れた医療サービスを提供できる環境を整えていても、立地が悪く集患できなければクリニックの経営は成り立ちません。
例えば、交通の便が悪い場所や、近隣に競合するクリニックが多いエリアに開業してしまうと、想定していたよりも集患できない可能性があります。また、交通の便が良くてもターゲットとなる患者が少ない場合、期待通りの集患が難しいかもしれません。
物件選びにおいても、クリニックに合っているかどうかを事前に確認しておく必要があります。立地・物件はセットで慎重に検討しましょう。
5.適切な採用ができていない
クリニック開業においては人材集めが必要ですが、自院に合った人材を採用できていない場合、経営に支障を来してしまいます。例えば、患者対応が不十分なスタッフや、チームワークが取れないスタッフがいると、クリニック全体のサービス品質が低下し、患者の満足度が下がる可能性があります。
したがって、求人募集をかける際は、求める人材をペルソナ化することが重要です。ペルソナ化とは、自社が採用したい人物像を設定することです。例えば、「年齢・性別・求めるスキル」に加えて、「仕事に対する価値観や志向性」まで明確にすると、訴求力のある求人広告に仕上がります。
このように、設定したペルソナに基づいて採用活動すれば、より自院に適した人材を集められるでしょう。待遇面を積極的にアピールすることも重要ですが、ペルソナから共感してもらうために、医院のコンセプトや職場環境などを開示することも重要です。
クリニック開業で失敗する確率は?
クリニックの廃業・倒産率は、1%以下とかなり低いとされています。
帝国データバンクが発表したデータによると、2023年のクリニックの倒産件数は580件と過去最多を記録しました。過去最多の倒産件数とはいえ、2024 年 1 月末時点のクリニック数は全国で10 万 5304 施設あるため、約0.55%のクリニックが倒産した計算です。
また、中小企業庁が発表した「令和3年度(2021年度)の小規模事業者の動向」によると、全国の中小企業の廃業率は3.3%でした。中小企業と比較しても、クリニックの廃業・倒産率はかなり低いといえます。
開業に失敗しやすい医師の特徴とは?
クリニックの開業失敗の要因はさまざまですが、医師自身の取り組み方や姿勢が要因となるケースも少なくありません。開業に失敗しやすい医師の特徴として、次の3つが挙げられます。
新しい医療スタイルに抵抗がある
マネジメント能力が低い
マイナス思考である
1.新しい医療スタイルに抵抗がある
新しい医療スタイルに抵抗を覚え、現状維持を好む医師は、開業後に失敗しやすいといえます。医療分野は常に進化しており、新しい技術や治療法を積極的に取り入れることが重要だからです。
例えば、オンライン診療を要望する患者が多いにも関わらず、オンライン診療の導入に慎重になりすぎてしまった結果、患者は他のクリニックを選ぶかもしれません。
むやみに最新機器を揃える必要はないものの、現状維持のままでは、患者の不満が高まる一方で満足度の低下につながる可能性があります。
医師であり経営者である以上、変化が激しい時代においては柔軟な発想を持ち、常に変化し続ける意識を持つことが大切です。
2.マネジメント能力が低い
クリニックを開業すると、スタッフのマネジメントを自ら行う必要があるため、マネジメント能力が低いと失敗の原因となります。
「勤務医時代の経験がある」という医師も多いと思いますが、勤務医は患者の診療や治療が主な役目であり、スタッフ管理や経営に関する責任は限定的です。
一方、開業医は医療業務だけでなく、クリニックの経営すべてに責任を持たなければなりません。スタッフの採用・育成・研修・管理から経費の管理、マーケティング戦略の立案など、幅広い業務をマネジメントする必要があります。
勤務医時代の経験が役立つ部分もあるかもしれません。ただし、勤務医と開業医では求められるマネジメントスキルや、責任の範囲が大きく異なるため注意が必要です。
3.マイナス思考である
経営者である医師が過剰なマイナス思考を持っていると、経営が上手くいかない可能性があります。経営には常に失敗がつくものであり、成功のためには失敗から立て直す精神力が必要不可欠だからです。
例えば、予期せぬトラブルや経営不振に直面した際、マイナス思考のままだと解決策を見つけるのが難しくなります。一方で、ポジティブな思考を持ち、失敗を成長のチャンスと捉えて問題に立ち向かえば、効果的な解決策を見つけ出せるかもしれません。
経営者となる以上、いずれ必ず困難に直面します。大きな困難に立ち向かうためにも、日ごろからポジティブ思考を心掛けることが大切です。
クリニックの開業を成功させる5つのポイント
クリニックを開業して成功するためには、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。これから紹介する5つのポイントを押さえ、開業時の参考にしてください。
1.適切な開業地の選定を行う
クリニックの開業を成功させるために、適切な開業地を選ぶことが極めて重要です。立地の利便性はもちろん、ターゲットとなる患者がアクセスしやすい場所を選びましょう。例えば、高齢者をターゲットとする場合、「交通の便が良い駅前」や「バス停付近の物件」を選ぶことで、通院のハードルを下げることができます。
また、競合クリニックの数や各クリニックのコンセプトを分析し、自院が優位に立てるかを確認することも大切です。開業するエリアの人口動態や発展性まで考慮すると、より成功確率が高まります。
2.資金計画を入念に行う
クリニック開業を成功させるために、念入りに資金計画を立てておかなければなりません。経営資金の不足によって、経営の失敗を招く恐れがあるためです。
例えば、開業当初は収益が安定しないことが予想されるため、十分な余剰資金がないとすぐに経営が傾く恐れがあります。したがって、少なくとも半年から1年分の運用資金を確保することが重要です。
また、資金計画の際は初期費用や運用費がいくらかかるか、おおよその数字を出しますが、理想ではなく現実に即した数字を出すことが前提です。
特に、設備購入費や内装工事費、人件費、広告宣伝費などの初期費用は予想以上にかかる可能性があります。したがって、想定した数字よりも余裕を持った資金計画を立てるように意識しましょう。
3.実践的な研修を入念に行う
クリニック開業を成功させるためには、医師を含む医療スタッフ全員が一丸となることが重要です。院長を含め、スタッフ全員が実践的な研修を受け、開業に備える必要があります。
例えば、クリニック開業後に患者が来院したら、スタッフが連携して患者を案内しなければなりません。受付手続き、問診票の記入、診察準備、診察室への案内など、実際の業務のシミュレーションは入念に行いましょう。
また、電子カルテや予約システムなどITを活用する場合は、ITリテラシーや活用法の研修も必要となります。自院の環境に合わせて適切な研修カリキュラムを組み、医師を含むスタッフ全員で取り組みましょう。
4.スタッフとの円滑なコミュニケーションを心掛ける
クリニック開業を成功させるためには、患者はもちろん、スタッフとの円滑なコミュニケーションを心掛けることが重要です。クリニックの経営は、スタッフ全員の協力なくして決して成り立ちません。
日ごろからスタッフ間で良好なコミュニケーションがとれていれば、業務中の連携がスムーズになるほか、スタッフの定着にもつながります。当然ながら、開業医は経営者でもあるため、全スタッフが働きやすい環境を整えることも仕事のひとつです。
なお、スタッフ間のやり取りは、患者が目にする機会も多くあります。クリニックの雰囲気の良さを患者に感じてもらうためにも、日ごろから良好なコミュニケーションを心掛けることが大切です。
5.医療DXによるIT化を促進する
さまざまなIT機器が発している現代において、医療DXによるIT化を促進することが必要不可欠です。業務の標準化と同時にIT化を進めることで、効率的なクリニック運営につながり、患者満足度の向上にもつながります。
例えば、電子カルテやオンライン予約システムを導入することで、患者のデータ管理や予約の受付がスムーズに行えるようになります。患者・クリニック双方のやり取りがITによって簡素化され、大きく負担を軽減できます。
しかし、開業準備と並行して医療DXの準備を進めるのは非常に困難でしょう。
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まとめ
クリニック開業は多くのメリットがある一方で、成功させるためには慎重な計画と準備が必要です。本記事で紹介した具体例を参考に、失敗を避けつつ成功ポイントを取り入れていきましょう。
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この記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属