「開業しやすい診療科とは?」「開業資金はどのくらい必要だろう」と考えている医師も多いでしょう。クリニックの開業を成功させるには、自身の専門分野と開業しやすさが合致した診療科を選ぶことも大切です。
この記事では、開業しやすい診療科を5つピックアップして、開業資金の目安や需要について詳しく解説します。さらに、開業を成功させるコツについても紹介しているので、開業を目指している方はぜひ参考にしてみてください。
クリニック開業の成功率は?
2021年の帝国データバンクの調査によると、開業したクリニックの廃業率は0.47%という結果でした。この結果は、一般法人の廃業率である1.65%よりも低いことから、クリニック開業の成功率は高いといえます。
また、クリニックの開業には、「資金の融資が比較的受けやすい」「自身の裁量にあった仕事ができる」「地域医療に貢献しやすい」などのメリットが多いため、これらも成功につながる要因といえるでしょう。
開業しやすい診療科一覧
ここでは、「開業資金の少なさ」と「需要の高さ」を考慮した、開業しやすい診療科を5つ紹介します。
- 精神科・心療内科
- 内分泌・糖尿病内科
- 在宅診療
- 産婦人科
- 眼科
さらに、各診療科の開業資金の目安についても紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
精神科・心療内科
精神科・心療内科は、数ある診療科の中でも開業資金を低く抑えられるため、開業しやすい診療科といえます。
必要な医療設備は、電子カルテやレセコン(レセプトコンピューター)と呼ばれる、診療報酬明細書の自動作成システムのみの場合が多く、設備費用もそれほどかかりません。
開業する立地によってテナント料の増減はありますが、基本的には処置室や検査室、大型設備なども不要なため、物件費用も抑えやすいでしょう。開業資金が低く済むため、自己資金なしで開業できる方が多い診療科です。
開業資金目安
精神科・心療内科における開業資金の目安は、1,400万円ほどです。一般的な内訳として、建物や土地に1,000万円前後、設備費用に400万円前後はかかるといわれています。
精神科・心療内科は、他の診療科に比べると高額な医療機器が不要なうえ、広いスペースを確保する必要もないため、開業資金を抑えやすいでしょう。他の診療科と比較しても開業資金が低いため、自己資金が少ない場合でも開業しやすいといえます。
内分泌・糖尿病内科
内分泌・糖尿病内科は近年、クリニックの開業数が増加傾向にある診療科のひとつです。糖尿病をはじめとする生活習慣病は、年齢とともに増加傾向にあるため、高齢化が進む日本では、内分泌・糖尿病内科の需要が高いといえます。
さらに、内分泌・糖尿病内科は、開業資金が比較的少ないのも特徴です。以前勤務していた病院や他の医療機関と連携できる場合は、自己資金なしで開業できる可能性もあります。
さらに、レントゲンなどの高額医療機器が不要なケースも多いため、医療機器にかかる導入費用も抑えやすいでしょう。ただし、内分泌・糖尿病内科は検査数が多く、患者の院内滞在時間が長くなるため、広い物件が必要となります。
開業資金目安
内分泌・糖尿病内科の開業資金は、5,000〜6,500万円が目安です。一般的な内訳として、建物や土地に3,000万円前後、設備費用に2,000〜3,500万円ほどはかかるといわれています。
開業資金を抑えるコツは、適切な医療機器を選定することです。内分泌・糖尿病内科は、血液検査や尿検査などの検査が中心となるため、高額な医療機器を揃える必要はないでしょう。
在宅診療
新型コロナウイルスや高齢化社会の影響により、在宅診療のニーズは高まりつつあります。厚生労働省の調査によると、2025年には在宅医療を必要とする人が29万人になるといわれています。
在宅診療の場合、建物や土地にかかる費用や高額な医療機器の導入、スタッフの採用も不要なケースが多いため、開業資金を大幅に抑えることが可能です。
ただし、周辺の基幹病院やクリニック、訪問看護ステーションとの連携が必要となるため、その点では開業の難易度が高いといえます。
開業資金目安
在宅診療における開業資金の目安は、3,500〜5,000万円ほどです。物件や土地などの費用がかからないことや、高額の医療機器を導入する必要がないため、他の診療科よりも1,000万円以上の資金を抑えることが可能です。
ただし、在宅診療を開業する際は、システムの構築費用に投資することが重要となります。在宅診療では、多くの書類作成が必要となり、事務作業に大きな負担がかかります。
事務作業の煩雑化により、本来の業務に支障をきたす恐れがあるため、在宅診療向けに特化した電子カルテシステムなど、作業を効率化できる環境を整えることが大切です。
産婦人科
産婦人科は、開業地の選定が重要な診療科です。出生率の高い地域や、子育て世帯の多いエリアを選ぶことが、産婦人科の開業を成功させるポイントになります。
産婦人科は女性医師のニーズが高く、開業しやすい診療科といえます。患者からは、診察や治療を受けることに対する安心感や信頼感を得やすいメリットがあるため、女性医師であれば、開業が有利となるでしょう。
産婦人科を開業する場合は、設備費用が最低でも2,000万円ほどかかることを想定しておきましょう。また、不妊治療も扱うか否かでも、設備費用は大きく異なります。
近年では、高齢出産の割合が増えて不妊治療のニーズが高まっているため、不妊治療科を標榜するかどうかは、ターゲットとする患者層やクリニックの理念などを明確にしたうえで決めましょう。
開業資金目安
一般的な産婦人科の開業にかかる資金は、5,000万円ほどといわれています。建物や土地にかかる費用は3,000万円程度、医療機器などの設備費用は2,000万円ほどです。
産婦人科は、設備費用が高額になりやすい診療科でもあります。例えば、電子カルテやレジスター、診察用ベッドの用意に加えて、内診台や超音波診断装置、X線撮影検査器具などの専門医療機器も必要となります。
不妊治療も扱う場合は、高度医療機器の導入や無菌室・培養室の準備が必要となるため、建物や土地代に4,500万円程度、設備費用に5,000万円程度と考えておくとよいでしょう。
眼科
眼科は、小児から高齢者まで幅広い年代の患者が訪れる診療科です。そのため、他の診療科と比べて、開業後も経済的な基盤が安定しやすい点が特徴です。さらに白内障手術やレーシック手術などの需要も高いため、対応可能な設備にすることでさらなる集患が期待できるでしょう。
ただし、眼科は開業資金が高額になりやすい特徴もあります。目の疾患を持つ患者が来院するため、院内をバリアフリー化するなど内装費用がかかります。さらに、眼底検査機器や視力検査機器をはじめとする専門機器の導入も必要なうえ、手術を扱う場合には、高額な医療機器も導入しなければなりません。
しかし、初期費用を回収しやすいメリットがあるため、自己資金に余裕のある方は、選択肢のひとつとして検討するとよいでしょう。
開業資金目安
一般的な眼科の場合、物件や土地にかかる費用は3,000万円前後、設備費用は2,000〜4,500万円ほどかかります。
手術を実施する場合、高額な医療機器の導入が必要となるので、設備費用はさらに上乗せされることになります。また、必要機器を設置するスペースを確保する必要があるため、物件や土地にかかる費用も高めになるでしょう。
クリニック開業を成功させるコツ
クリニックの開業を成功させるには、医療の専門知識やスキルだけでなく、経営に関する知識を身につけることも大切です。
開業に至るまでには、事業計画の立案や開業地の選定、開業資金の準備など、多くの知識や情報収集が必要になります。さらに、開院後も安定した経営を続けるため、経営スキルを磨くことが必要です。
ここでは、クリニック開業を成功させるためのコツを3つ紹介します。これらのポイントをチェックし、開業準備や開業後のクリニック運営に役立てましょう。
立地のよい場所に開業する
開業地の選定は、開院後のクリニック経営を左右する重要なポイントです。開業地を選ぶ際は、候補地の人口や年齢構成など、地域特性を詳細に調査しましょう。
産婦人科であれば出生率が高い地域や、子育て世帯の多いエリアに絞るなど、開業したい診療科と親和性の高いエリアを見極めることが重要です。
さらに、候補地の交通事情を把握することも大切です。複数の路線が乗り入れている駅であれば、遠方の患者もアクセスしやすいため、より広いエリアからの集患が見込めます。
また、候補地付近の競合クリニックを調査することも重要です。人口に対して同一の診療科が多数ある場合、そのエリアは避けた方がよいでしょう。
経営スキルを身につける
クリニックを開業する場合、「患者に選ばれるクリニック」となるため、経営スキルも不可欠です。
まず、経営者としてマーケティングの知識を持つことが大切です。開業後は、集患数を増やすため、ターゲットとなる患者が来院しやすい開業エリアを選定したり、SNSやメディアを活用した集患施策を取り入れたりする必要があります。
さらに、管理者として適切な労務管理や税務管理なども、クリニック経営に必要なスキルです。これらのスキルを身につけることで、法令遵守と経営の効率化と両立させて、安定した経営基盤を築けるでしょう。
コミュニケーションが取りやすい環境を作る
スタッフマネジメントの一環として、コミュニケーションの取りやすい環境づくりも必要です。クリニックを円滑に運営するためには、医師一人の力だけでは不十分です。受付や事務、看護師など複数のポジションのスタッフが、チームとして運営していくことが重要となります。
スタッフ同士が良好な関係性を築けない場合、仕事の質やモチベーションの低下につながり、離職率が高くなってしまうでしょう。人員不足が続くことで、雇用にかかる費用負担が増えるうえ、優秀な人材が定着しにくくなります。
スタッフ同士がコミュニケーションを取りやすく、気持ちよく働ける環境づくりをすることで優秀な人材を確保しやすくなり、院内の士気を高めることにつながります。
まとめ
開業しやすい診療科を選ぶ際は、開業資金が安く済む点だけでなく、需要の高さも考慮することが大切です。また、多くの開業資金が必要となっても、開業後に安定した集患や収益が見込める診療科であれば、初期費用の回収も早くなるでしょう。
また、開業するには、経営者や管理者としての幅広いスキルが必要になります。事前にしっかりと準備し、継続的に学び続ける姿勢を持つことが、安定した経営を継続するために重要です。
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この記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属