電子カルテの導入を検討するなかで、「オーダリングシステム」という言葉を目にする機会があります。
電子カルテと同じ医療情報システムの一つですが、役割や対応できる業務範囲には違いがあります。両者の特徴を理解することで、自院に必要な機能や導入すべきシステムを判断しやすくなります。
本記事では、オーダリングシステムの基本的な仕組みから、電子カルテとの違い、主な機能、導入するメリット・デメリット、診療所で導入を検討する際のポイントまで詳しく解説します。
最短10秒、かんたんオーダリングシステムとは
オーダリングシステムは、主に病院で導入されてきた医療情報システムの一つです。ここでは、基本的な役割と病院情報システム(HIS)における位置づけを解説します。
オーダリングシステムの定義
オーダリングシステムとは、医師が入力した指示(オーダ)を、院内の各部門へ電子的に伝達する仕組みです。対象となるオーダには、薬の処方、検査、注射、入院に関する指示などが含まれます。
従来は、紙の伝票を使って薬剤部門や検査部門、看護部門へ指示を伝えていました。オーダリングシステムを導入すると、医師が入力した内容が各部門へリアルタイムで共有されるため、伝票の受け渡しや手入力による転記作業を減らせます。
ただし、オーダリングシステムの役割は診療記録の管理ではありません。あくまで医師の指示を正確かつ効率的に院内へ伝えることが目的であり、医療現場における情報連携を支える仕組みといえます。
病院情報システム(HIS)の中での位置づけ
オーダリングシステムは、病院情報システム(HIS)を構成する重要な要素の一つです。HISとは、医事会計システムや電子カルテ、検査・薬剤などの部門システムを含む、病院全体の情報管理の仕組みを指します。
医療システムの発展は、会計システム、オーダリングシステム、電子カルテという順で進んできました。そのため、オーダリングシステムは電子カルテよりも先に普及した歴史があります。
厚生労働省の医療施設調査によると、一般病院におけるオーダリングシステムの普及率は2020年時点で約62%となっており、2008年の約32%から増加しています。
一方で、導入状況は病院規模によって差があり、400床以上の大規模病院では9割を超える一方、200床未満の中小病院では5割程度にとどまっています。
電子カルテとの違い

オーダリングシステムと電子カルテは、混同されることがあります。両者は連携して使われますが、担う役割は異なります。目的と、導入の順序という観点から違いを整理しましょう。
役割・目的の違い(指示伝達と診療記録)
オーダリングシステムと電子カルテの大きな違いは、目的にあります。
オーダリングシステムは、医師が出した指示を院内の各部門へ伝達するための仕組みです。薬の処方や検査、注射などの指示を正確かつ迅速に共有し、診療をスムーズに進める役割を担います。
一方、電子カルテは患者の症状や診断内容、検査結果、治療経過など、診療に関する情報を記録・管理するシステムです。つまり、オーダリングシステムが「指示を伝える」ための仕組みであるのに対し、電子カルテは「診療情報を残す」ための仕組みといえます。
ただし、実際の医療現場では両者は連携して使われています。電子カルテに診療内容を記録しながら、その場で検査や処方の指示を出すなど、記録と指示は一連の業務のなかで行われています。
導入順序・一体型と分離型の関係
多くの病院では、オーダリングシステムが先に導入され、その後に電子カルテが普及していきました。まずは医師の指示伝達を効率化し、次第に診療記録の電子化へと広がったためです。
現在は、オーダリング機能を搭載した電子カルテが一般的です。電子カルテ上で診療記録の入力から検査・処方の指示まで一元的に行えるため、このような形を一体型と呼びます。
一方で、大規模病院などでは、オーダリングシステムと電子カルテを別々の製品として組み合わせる分離型が採用される場合もあります。専門性の高いシステムを選択できる一方、システム間の連携設定や管理が必要になります。
どちらの方式が適しているかは、医療機関の規模や必要とする機能、運用体制によって異なります。
オーダリングシステムの主な機能

オーダリングシステムには、診療のさまざまな指示を扱う機能が備わっています。代表的なオーダの種類と、部門をまたいだ情報共有の機能について見ていきましょう。
処方・検査・注射などのオーダ機能
オーダリングシステムの中心となるのが、各種のオーダを入力・伝達する機能です。代表的なのが処方オーダで、医師が処方内容を入力すると、その情報が薬剤部門へ伝わり、調剤の準備が進みます。
検査オーダでは、血液検査などの検体検査や、レントゲンといった画像検査の指示を、それぞれの部門へ送れます。注射オーダは、注射や点滴の指示を看護部門へ伝えるものです。
ほかにも、処置や給食、入院・転棟に関するオーダなど、病院の業務に応じてさまざまな種類があります。医師は画面上で必要な項目を選んで入力するだけでよく、指示の内容が標準化されるため、記載のばらつきや読み間違いも防げます。
部門間連携・実施情報の共有
オーダリングシステムのもう一つの重要な役割が、部門間の連携です。医師が入力した指示は、関係する各部門へリアルタイムで共有され、部門をまたぐ業務をスムーズにつなぎます。
さらに、指示に対して実施された処置や投薬などの情報も、システム上で確認できます。例えば、注射が予定どおり行われたかを、医師や看護師が画面上で把握することが可能です。
指示と実施状況を可視化することで、対応漏れや重複した処置の防止につながります。また、誰がいつ何を行ったのか記録として残るため、医療安全の向上にも役立ちます。
院内の情報を一元的につなぎ、チーム全体で患者の状況を共有できる点が、オーダリングシステムの大きな特徴です。
導入のメリットとデメリット

オーダリングシステムの導入は、医療現場に多くの利点をもたらします。一方で、費用や運用面での課題もあるため、両方を理解したうえで導入を判断することが重要です。
業務効率・安全性のメリット
オーダリングシステムを導入する大きなメリットは、業務の効率化です。紙の伝票をやり取りする必要がなくなり、医師の指示を各部門へ迅速に共有できます。転記作業も減るため、スタッフの負担軽減や患者の待ち時間短縮にもつながります。
また、医療安全の向上も重要な利点です。手書きの伝票では、文字の読み間違いや転記ミスが発生する可能性がありました。オーダリングシステムでは、画面上で項目を選択して入力するため、こうしたミスを抑えやすくなります。
さらに、薬の飲み合わせや過去の指示との重複を知らせる機能を搭載したシステムもあり、リスクのある指示を防ぐサポートになります。指示や実施内容が記録として残ることで、確認しやすい環境を整えられる点も、安全な医療提供につながります。
コスト・運用面のデメリット
オーダリングシステムの導入にはいくつかの課題があります。まず考慮したいのが費用面です。特に病院向けの大規模なシステムは高額になりやすく、施設の規模によっては大きな投資が必要になります。導入後も、保守やシステム更新に継続的な費用が発生します。
また、運用面での負担も無視できません。新しいシステムを定着させるには、医師やスタッフが操作方法を習得する必要があります。
導入直後は業務の流れが変わることで混乱が起こったり、従来の方法からの変更に抵抗が出たりする場合もあります。そのため、十分な研修や運用ルールの整備が欠かせません。
加えて、システム障害が発生した場合には、指示伝達が滞り診療へ影響する可能性があります。万一に備え、紙で対応する手順をあらかじめ決めておくなど、障害時の対策も必要です。
診療所(クリニック)での考え方

オーダリングシステムは主に病院で普及してきた仕組みですが、診療所やクリニックでは導入の考え方が異なります。病院では複数の部門間で多くの指示を共有するため、オーダリングシステムが重要な役割を担います。
一方、診療所ではスタッフや部門が限られるため、オーダリングシステムを単体で導入するケースは少なく、電子カルテに組み込まれた機能を利用する形が一般的です。
開業時にシステムを選ぶ際は、オーダリング機能だけを見るのではなく、自院の診療内容に必要な機能が電子カルテに備わっているかを確認することが重要です。
診療科によって使用する検査や処置は異なるため、日々の業務に合った機能を選ぶことで、導入後の使いやすさにつながります。
また、電子カルテやオーダリング機能だけでなく、予約、問診、オンライン診療、決済など周辺システムとの連携も欠かせません。それぞれを別々に管理すると入力や確認の手間が増えるため、診療全体の流れを踏まえて仕組みを整える必要があります。
予約から問診・オンライン診療・決済までをLINEやWebで管理できるmarchのような仕組みと連携すれば、受付から診療後までの業務を効率化しやすくなります。自院の規模や運用に合った、過不足のないシステムを選ぶことが大切です。
まとめ
オーダリングシステムは、医師の指示を院内の各部門へ伝達する仕組みで、診療情報を記録・管理する電子カルテとは役割が異なります。処方や検査、注射などのオーダ機能と部門間連携によって、業務効率化や医療安全の向上につながります。
一方で、導入コストや運用面の負担には注意が必要です。診療所では電子カルテ一体型が主流のため、自院に必要な機能や周辺システムとの連携性を踏まえて選ぶことが大切です。
最短10秒、かんたんこの記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属

