カルテ入力に追われ、診療後の残業や持ち帰り仕事に悩む医師は少なくないのではないでしょうか。その負担を軽くする手段として、音声入力やAIを使ったカルテ作成が注目されています。
本記事では、音声入力とAI音声入力の違いや仕組み、活用場面、導入のメリットと注意点、自院に合うシステムの選び方を、クリニックの視点から解説します。
最短10秒、かんたん電子カルテの音声入力とは?
電子カルテの音声入力には、従来型のものと、生成AIを組み合わせた新しいタイプがあります。まずは両者の違いと、AIがカルテをつくる仕組みを理解しておきましょう。
音声入力とAI音声入力の違い
電子カルテの音声入力は、大きく二つに分けられます。一つは、従来からある音声入力です。これは、医師が話した言葉を音声認識でそのまま文字に変換し、カルテに入力するもので、キーボードを打つ手間を省けます。
もう一つが、近年広がっているAI音声入力です。こちらは、診察中の医師と患者の会話を録音し、生成AIがその内容を解析して、診療記録の原稿を自動で作成します。単なる文字起こしにとどまらず、会話から要点を抽出して整理してくれる点が大きな違いです。
従来型が「話した言葉を文字にする」のに対し、AI音声入力は「会話の内容をカルテの形にまとめる」と言い換えると、違いがわかりやすいでしょう。
仕組み(会話の文字起こし→SOAP要約)
AI音声入力の仕組みは、おおまかに二つの段階に分かれます。まず、診察中の会話を音声認識でテキストに変換します。次に、そのテキストを生成AIが解析し、診療記録としてふさわしい形に整理します。このとき多く採用されているのが、SOAPと呼ばれる形式です。
SOAPは、患者の訴えなどの主観的情報、検査所見などの客観的情報、評価、計画という四つの要素でカルテを構造化する記載方法です。AIが会話の中から各要素にあたる内容を抜き出し、SOAP形式の原稿として出力します。
医師は、できあがった原稿を確認し、必要に応じて修正するだけで記録を仕上げられます。日本語の医療用語に対応した音声認識と組み合わせることで、実用的な精度が得られるようになってきました。
音声入力でできること・活用場面

音声入力は、外来の診察にとどまらず、さまざまな診療の場面で力を発揮します。どんな使い方ができるのか、現場で役立つ代表的な活用シーンを具体的に見ていきましょう。
診察中のリアルタイム入力
最も基本的な活用場面が、診察中のリアルタイム入力です。従来は、医師がパソコンの画面に向かってカルテを打ち込みながら診察することが多く、患者と十分に向き合えないという課題がありました。
音声入力を使えば、話しながらその場で記録を残せるため、キーボードに気を取られずに済みます。AI音声入力であれば、医師と患者の自然な会話をそのまま記録の材料にできるので、診察の流れを止めずにカルテ作成を進められます。
診察が終わる頃には原稿の下書きができあがっているため、あとは確認と修正をするだけです。診療のテンポを保ちながら、記録の負担を大きく減らせる点が魅力です。
訪問診療・問診・サマリー作成などの活用
音声入力は、外来の診察以外でも役立ちます。たとえば訪問診療では、移動の合間や患者宅での記録が負担になりがちですが、スマートフォンなどで音声を使えば、その場で手早く記録を残せます。両手がふさがりやすい在宅の現場と相性がよいのも利点です。
また、問診内容の整理や、診療情報提供書、退院時サマリーといった文書の下書き作成にAIを活用する使い方も広がっています。長文の文書を一から書く負担は大きいため、AIがたたき台を用意してくれるだけでも作業は大きく軽くなります。
日々の記録から各種文書の作成まで、医師が文章をつくる場面の多くで活用が見込めます。
導入するメリット

音声入力やAIをカルテ作成に取り入れることで、現場には具体的な効果が生まれます。ここでは、働き方の改善と医療の質という二つの側面から、導入によるメリットを見ていきましょう。
入力時間・残業の削減
最も大きなメリットが、カルテ入力にかかる時間の削減です。開業医の残業や持ち帰り仕事の多くは、診療後に残ったカルテ記入が原因だといわれています。
一人ひとりの記録を丁寧に書こうとするほど、診療時間外の作業は増えていきます。音声入力を使えば、キーボードを打つ時間そのものを減らせます。
AI音声入力なら、会話から原稿が自動で作られるため、医師は内容を確認・修正するだけで済み、入力作業は大幅に短くなります。製品によっては、診察後わずかな時間で記録の下書きが仕上がるものもあります。
こうして生まれた時間は、より多くの患者を診ることにも、定時で帰って休息にあてることにも使えます。業務負担の軽減は、医師やスタッフの働きやすさに直結し、離職を防ぐうえでも意味を持ちます。
患者と向き合う診療・医療の質向上
もう一つの大きなメリットが、診療の質の向上です。パソコンへの入力に追われていると、どうしても画面を見る時間が増え、患者と目を合わせる余裕が失われがちです。
音声入力を取り入れれば、医師は記録の手を止めて患者の話に耳を傾け、表情や様子をしっかり観察できます。患者にとっても、自分の話をきちんと聞いてもらえているという安心感は、満足度や信頼につながります。
さらに、AIが会話を漏れなく記録の材料にすることで、書き忘れや記載のばらつきが減り、記録の質が安定するという効果も期待できます。
記録が充実すれば、次回以降の診療や、ほかの医療機関との連携にも役立ちます。医師が本来集中すべき診療そのものに力を注げるようになる点が、大きな価値といえるでしょう。
導入時の注意点

多くのメリットがある一方で、音声入力の導入には気をつけたい点もあります。安心して使うために、押さえておくべき注意点を確認しておきましょう。
認識精度・専門用語と確認修正の必要性
まず理解しておきたいのが、音声認識やAIは万能ではないという点です。診察室の雑音や、医師の話し方、複数人が同時に話す状況などによって、認識の精度は変わります。医療特有の専門用語や薬剤名は、一般的な音声認識では正しく変換されないこともあります。
また、生成AIが作成した原稿は、あくまで下書きです。AIが内容を取り違えたり、事実と異なる記述を生成したりする可能性もゼロではありません。そのため、できあがった記録を医師が必ず確認し、誤りがあれば修正することが欠かせません。
カルテは医療や請求の根拠となる重要な記録です。AIに任せきりにせず、最終的な責任は医師が持つという前提で活用することが大切です。
セキュリティ・医療情報の安全管理
音声データやカルテの内容は、機微な個人情報の塊です。そのため、セキュリティ対策は何より重要になります。利用するサービスが、国の医療情報システムの安全管理に関するガイドラインに準拠しているかを必ず確認しましょう。
データの暗号化や、国内のサーバーで管理されているか、誰がどこまで情報にアクセスできるかといった点も確認のポイントです。生成AIを使う場合は、入力した情報がどのように扱われるかも見ておく必要があります。
国の事業では、院内で処理が完結する仕組みを検証する取り組みも進められています。患者の信頼を守るためにも、安全管理を軽視しないことが欠かせません。
既存電子カルテとの連携・費用
導入にあたっては、いま使っている電子カルテとうまく連携できるかも確認しましょう。作成した原稿を、コピー&ペーストやデータ連携でスムーズにカルテへ取り込めるかで、使い勝手は変わります。
費用面では、初期費用や月額料金のほか、定額で使い放題のものなど料金体系もさまざまです。利用頻度に見合ったプランかを見極めることが大切です。
音声入力システムの選び方

音声入力システムは数多くあり、特徴も料金もさまざまです。自院に合うものを選ぶために、比較の際に見ておきたいポイントを整理しましょう。
医療特化の音声認識・出力形式で選ぶ
まず重視したいのが、医療現場に特化しているかどうかです。日本語の医療用語や薬剤名に対応した音声認識であれば、変換の精度が高く、修正の手間を減らせます。診察室の雑音がある環境でも認識できるか、複数人の会話に対応できるかも確認しておきましょう。
あわせて、出力の形式も大切です。SOAP形式で構造化された原稿が出力されるかなど、自院の記録の書き方に合うかを見ておくと、導入後の運用がスムーズになります。デモやトライアルで、実際の診療に近い状況で精度を試してみることをおすすめします。
連携・サポート・料金体系で選ぶ
次に確認したいのが、既存システムとの連携性です。使っている電子カルテへ原稿を取り込みやすいか、訪問診療を行うならモバイル端末で使えるかなど、自院の運用に合うかを見極めましょう。
導入時の設定支援や、運用中の問い合わせ対応といったサポート体制も欠かせません。料金体系は、月額制や使い放題など製品によって異なるため、利用頻度に照らして無理のないものを選びます。なお、音声入力は記録の効率化に特化した仕組みです。
予約や問診、オンライン診療まで含めた業務全体の効率化を考えるなら、これらを一体化できるmarchのような仕組みとあわせて検討するとよいでしょう。
まとめ
電子カルテの音声入力は、入力時間や残業を減らし、医師が患者と向き合う時間を増やせる仕組みです。生成AIを使えば、会話からSOAP形式の原稿を自動作成することもできます。
一方で、認識精度や専門用語への対応、確認・修正、セキュリティ対策は欠かせません。医療特化の音声認識や連携性、料金を比較して選びましょう。予約や問診、オンライン診療なども含めた業務効率化にmarchを役立てられます。
最短10秒、かんたんこの記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属


