2年に一度行われる診療報酬改定は、クリニックの収益や今後の運営方針に影響する重要な見直しです。2026年度改定では、賃上げ対応や医療DXの推進が大きな柱となり、クリニックにもさまざまな変化が求められます。
本記事では、2026年度診療報酬改定の全体像やクリニックに関わる主な変更点、医療DX関連の加算の再編、改定後に必要となる対応について解説します。
最短10秒、かんたん2026年度診療報酬改定の全体像
まずは、2026年度の診療報酬改定がどのような規模で、いつから始まるのか、そしてなぜこのタイミングで行われるのか、全体像を押さえておきましょう。
改定率と施行時期(2026年6月1日)
2026年度、すなわち令和8年度の診療報酬改定は、2026年2月に中央社会保険医療協議会の答申を経て内容が確定しました。今回の改定で特に注目されるのが、本体の改定率です。
診療報酬本体はプラス改定となり、その率は令和8・9年度の2年度平均で約3%と、近年でも高い水準となりました。これは、賃上げへの対応が強く意識された結果です。
一方で、薬の価格にあたる薬価は引き下げられ、マイナス改定となっています。施行時期にも注意が必要です。
薬価は2026年4月1日から、診療報酬本体は2026年6月1日から施行されます。前回の改定から、本体の施行時期が4月ではなく6月に変更された点も、確認しておきたいポイントです。
改定の背景(物価高騰・賃上げ)
今回の改定の背景には、物価高騰と、それに伴う賃上げの必要性があります。近年、さまざまな物の価格が上昇するなか、医療機関の運営コストも増加しています。光熱費や医療材料費の値上がりは、経営を圧迫する要因です。
同時に、社会全体で賃上げが進むなか、医療現場でも人材確保や処遇改善が重要な課題となっています。看護師や医療事務などのスタッフの待遇を改善しなければ、人材流出につながる可能性もあります。
こうした状況を踏まえ、今回の改定では医療従事者の賃上げを支えることが大きなテーマとなりました。本体の改定率が高めに設定されたのも、この賃上げ対応が主な理由です。物価や人件費の上昇に対し、診療報酬の面から対応する改定といえるでしょう。
クリニックに関わる主な改定項目

2026年度の改定には多くの項目がありますが、そのなかでもクリニックの運営に影響が大きいものを取り上げます。賃上げ対応から外来医療の見直しまで、順に確認していきましょう。
物価・賃上げ対応(ベースアップ評価料など)
今回の改定で大きなポイントとなるのが、賃上げへの対応です。その中心となるのが、2024年度に導入された「ベースアップ評価料」の拡充です。
これは、職員の賃金引き上げに必要な費用を診療報酬で支える仕組みで、算定した分はスタッフの処遇改善に充てることが求められます。
2026年度の改定では、この評価料の点数が引き上げられました。たとえば、外来・在宅ベースアップ評価料では、初診や再診の点数が従来より高く設定されています。
また、対象となる職種も拡大され、これまで中心だった看護師などに加え、医療事務や受付といった事務職員も含まれるようになりました。幅広いスタッフの賃上げに活用できる仕組みとなっています。
届出を行うことで、人件費の上昇に対応しやすくなるため、対象となるクリニックは要件を確認しておくことが大切です。
生活習慣病管理料・地域包括診療の見直し
クリニックの外来診療に関わる項目も見直されています。特に、糖尿病や高血圧、脂質異常症などの生活習慣病を管理する際に算定する生活習慣病管理料は、近年の改定で大きく変化してきました。
継続的な管理や、療養計画にもとづく丁寧な指導がこれまで以上に重視される方向です。また、複数の慢性疾患を持つ患者を総合的に診る地域包括診療料や地域包括診療加算についても、要件や評価の見直しが続いています。
かかりつけ医として患者を継続的に支える診療が評価される流れにあるため、これらの項目を算定しているクリニックでは、変更後の要件を確認し、日々の記録や指導内容が適切か見直す必要があります。
外来機能・かかりつけ医機能の強化
2026年度の改定では、外来医療の機能分化とかかりつけ医機能の強化も重要なテーマです。地域の身近な医療機関として、患者を継続的に診療し、必要に応じて専門医療機関へつなぐ役割が改めて重視されています。
かかりつけ医としての機能を評価する項目も設けられており、日頃から患者との関係を築き、幅広い相談に対応する診療所の役割は、今後さらに重要になるでしょう。
医療DX関連の加算の再編

2026年度改定のもう一つの柱が、医療DXの推進です。これに伴い、関連する加算が大きく再編されました。クリニックに関わる医療DX関連の変更点を確認しましょう。
医療DX推進体制整備加算の見直し
医療DXを評価する加算は、今回の改定で大きく整理されました。これまでは、医療DXに対応した体制を評価する「医療DX推進体制整備加算」と、マイナ保険証などを活用して患者情報を取得する体制を評価する「医療情報取得加算」がありました。
2026年度改定では、これらの評価が見直され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」として整理されています。
大きな変更点は、評価の軸が「体制を整えているか」から「実際に活用しているか」へ移ったことです。電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの利用状況、マイナ保険証の利用実績など、導入後の活用状況が重視されるようになりました。
具体的な点数や算定要件については、告示や通知などの一次情報を確認しながら対応することが重要です。
オンライン診療・電子処方箋関連
オンライン診療や電子処方箋に関する評価も、医療DX推進の流れに合わせて見直されています。オンライン診療は、2026年4月から医療法上の制度として位置づけられ、診療報酬でも適切な実施体制が評価される方向です。
また、電子処方箋についても、医療DX関連の加算要件に組み込まれるなど、導入を後押しする仕組みが整えられています。
今後は、単にシステムを導入するだけでなく、実際の診療で活用できているかが重要になります。
クリニックにとっては、オンライン診療や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどの環境を整え、日常業務に取り入れることが、加算算定だけでなく診療の質向上にもつながります。
改定がクリニック経営に与える影響

診療報酬の改定は、クリニックの収益や運営体制に直接影響します。改定によって何が変わり、どう備えるべきか、経営の視点から見ていきましょう。
収益・施設基準の変化
診療報酬の改定は、クリニックの収益構造にも影響します。本体がプラス改定となったことで、賃上げに対応するための財源は確保しやすくなりました。
ただし、その効果を得るには、ベースアップ評価料などの届出を行い、算定要件を満たすことが前提です。届出をしなければ算定できず、収益への反映も期待できません。
また、加算の再編によって、これまで算定していた項目が廃止されたり、要件が変更されたりしています。従来と同じ運用を続けていると、算定対象外となる可能性もあります。
施設基準の変更内容を把握し、自院で算定している項目がどのように変わるのかを確認しておくことが欠かせません。
届出・体制整備のポイント
改定内容を収益に反映させるには、施設基準の届出が鍵になります。新たに算定したい加算がある場合や、要件が変わった場合には、地方厚生局へ届出を行う必要があります。
特に注意したいのが、届出の期限です。本体の改定は2026年6月1日の施行ですが、その日から算定を始めるには、前月の期限までに届出を済ませておかなければなりません。
期限に遅れると、算定の開始が翌月以降にずれ込み、その分の収益を逃してしまいます。近年は、施設基準の届出を電子申請できる仕組みも広がっています。
あわせて、ベースアップ評価料を算定する場合は、算定した分を確実に賃上げにあてる体制を整えることも求められます。改定の内容を早めに把握し、必要な届出と体制整備を計画的に進めることが大切です。
クリニックが取るべき対応

2026年度の診療報酬改定に対応するには、最新情報を確認し、自院に関係する項目を整理したうえで、計画的に準備を進めることが求められます。
改定内容は、告示や通知、疑義解釈などで順次示されます。解説記事などで全体像をつかむことも役立ちますが、算定に関わる詳しい点数や要件については、厚生労働省が公表する一次情報で確認しましょう。
自院に関係する項目の洗い出しも必要です。現在算定している項目や、今後取得を検討している加算について、要件変更の有無を確認しましょう。施設基準の届出が必要な場合は、施行日に間に合うよう、必要な準備や手続きを逆算して進めることが重要です。
また、今回の改定で重要性が高まった医療DXへの対応も欠かせません。オンライン診療や電子処方箋、電子カルテ情報共有サービスなどは、単に導入するだけでなく、実際の診療で活用しているかが評価される方向にあります。
自院の業務に合わせてデジタル化を進めることで、加算への対応だけでなく、診療や受付業務の効率化にも役立ちます。
予約から問診、オンライン診療、決済までを一体化できるmarchのような仕組みを活用すれば、患者対応の流れを整えながら、医療DXへの取り組みも進めやすくなります。
制度変更を単なる負担と捉えるのではなく、院内体制や業務を見直す機会として活用することが大切です。
まとめ
2026年度の診療報酬改定は、賃上げと医療DXを大きな柱とした内容です。クリニックに関わる主な変更として、ベースアップ評価料の拡充、生活習慣病管理料やかかりつけ医機能の見直し、医療DX関連加算の再編などが挙げられます。
改定内容を経営に反映するには、施設基準の確認や必要な届出を期限内に進めることが欠かせません。最新の一次情報を確認しながら、オンライン診療や電子処方箋などの活用を進め、自院に合った体制づくりを整えていきましょう。
最短10秒、かんたんこの記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属

