クリニックの開業を考え始めたとき、何から手をつけ、どのくらいの期間がかかるのかは気になるところではないでしょうか。全体の流れを早めに把握しておくことが、つまずきのない開業への第一歩になります。
本記事では、開業までの全体像、準備の前半と後半の流れ、保健所・厚生局への手続き、医療DX時代に欠かせない準備までを、クリニックの視点から解説します。
最短10秒、かんたんクリニック開業までの全体スケジュール
開業は、思い立ってすぐにできるものではありません。まずは、準備にどのくらいの期間が必要か、そして全体がどんな流れで進むのかという大枠をつかんでおきましょう。
準備期間の目安(おおむね1年〜1年半)
クリニックの開業は、構想を固めてから実際に開院するまで、おおむね1年から1年半ほどかかるのが一般的です。物件探しや資金調達、内装工事、医療機器の選定、スタッフ採用、行政手続きなど、やるべきことが多岐にわたるためです。
これらは、一つずつ順番に片づけるのではなく、複数を並行して進める必要があります。特に、勤務医として働きながら準備する場合は、思うように時間が取れないことも少なくありません。
逆算してスケジュールを組み、早めに動き出すことが、余裕を持った開業につながります。
全体の流れ(おおまかなステップ)
開業までの流れは、おおよそ十あまりのステップに整理できます。まず開業コンセプトを固め、診療圏調査をもとに事業計画を立てます。続いて物件を選定し、金融機関から資金を調達します。
次に、内装の設計・工事を進め、医療機器をそろえます。並行してスタッフを採用し、研修を行います。
そのうえで、保健所への開設届や厚生局への指定申請といった行政手続きを済ませ、集患の準備を整えて開院を迎えます。全体像を頭に入れておくと、今どの段階にいて、次に何をすべきかが見えやすくなります。
開業準備の前半(構想〜資金・物件)

開業準備の前半は、クリニックの土台を形づくる重要な期間です。コンセプトの設計から資金の確保まで、開業の方向性を決める工程を見ていきましょう。
コンセプト設計と診療圏調査・事業計画
開業準備は、どんなクリニックにしたいかというコンセプトを固めることから始まります。診療科や対象とする患者層、診療方針、めざす規模などを具体的に描くことが出発点です。次に欠かせないのが、診療圏調査です。
開業を検討している地域の人口構成や競合医療機関の状況を調べ、どれくらいの患者数が見込めるかを把握します。この結果は、立地選びや収支の見通しの根拠になります。これらをもとに、収支計画や資金計画を盛り込んだ事業計画を作成します。
事業計画は、金融機関から融資を受ける際の重要な判断材料にもなるため、精度の高いものに仕上げることが大切です。開業の成否は、この前半の計画づくりで大きく左右されます。
物件選定と資金調達
事業計画の方向性が定まったら、物件の選定と資金の調達を進めます。物件は、診療圏調査の結果を踏まえ、患者が通いやすい立地かどうかを重視して選びます。テナントか戸建てか、広さや動線が診療に適しているかも確認が必要です。
資金面では、自己資金に加えて、日本政策金融公庫や民間金融機関からの融資を組み合わせて調達するのが一般的です。物件が決まると内装や設備の費用も具体化するため、両者を並行して進めることで、資金計画の精度が高まります。
保健所・医師会への事前相談
物件のめどが立った段階で、早めに済ませておきたいのが保健所への事前相談です。クリニックの構造設備には基準があり、内装工事に着手する前に図面の段階で相談しておくと、後からの手戻りを防げます。
クリニックの名称も、近隣に似た名前がないか確認しておくと安心です。地域の医師会へ相談しておくと、開業に役立つ情報や支援を得られることもあります。
開業準備の後半(内装〜採用・集患)

準備の後半は、計画を形にしていく工程です。内装工事や医療機器の導入、スタッフの採用、集患の準備まで、開院に向けて具体的な作業が一気に進みます。
設計・内装工事と医療機器の選定
物件と資金が固まったら、内装の設計と工事に入ります。クリニックの内装は、患者の動線やプライバシーへの配慮、診療のしやすさを踏まえて設計することが大切です。受付や待合室、診察室、処置室などの配置を、保健所の基準も満たす形で決めていきます。
工事には数か月かかることが多いため、開院日から逆算して着工時期を決めましょう。並行して進めるのが、医療機器の選定です。診療科に必要な機器をそろえますが、すべて購入すると費用がかさみます。
リースを活用したり、優先順位をつけて段階的にそろえたりすることで、初期投資を抑えられます。内装と機器は費用に占める割合が大きいため、計画的に進めることが重要です。
スタッフ採用・労務整備・研修
クリニックの運営を支えるスタッフの採用も、後半の重要な作業です。看護師や医療事務など、必要な職種と人数を見極め、開院の数か月前から採用活動を始めます。
採用後は、労働条件通知書や雇用契約書を整え、社会保険や労災・雇用保険の手続きも進めておきます。これらの労務手続きは、開業の直前にあわてないよう計画的に行いましょう。さらに、開院前の研修も欠かせません。
電子カルテの操作や受付の流れ、接遇マナーなどを事前に練習しておくことで、開院初日からスムーズに診療を始められます。
ホームページ・集患準備
開院が近づいたら、患者に知ってもらうための集患準備を進めます。ホームページは、診療内容やアクセス、診療時間などを伝える基本の窓口です。
スマートフォンで見やすいデザインにしておくと、より多くの人に届きます。あわせて、内覧会の開催やWeb予約の案内なども効果的です。開院前から認知を広げておくことが、スタートダッシュにつながります。
開業に必要な行政手続きとスケジュール

開業準備のなかでも、特に順序と時期が重要なのが行政手続きです。手続きの順番を誤ると保険診療の開始が遅れることもあるため、仕組みを正しく理解しておきましょう。
保健所への診療所開設届
クリニックを開設したら、まず保健所へ「診療所開設届」を提出します。医師個人が無床のクリニックを開設する場合、医療法により、開設した日から10日以内に届け出ることが定められています。
実務上は、内装工事が完了したタイミングで提出することが多く、提出後には保健所による立入検査が行われる場合があります。検査では、部屋の用途や構造設備が基準を満たしているかが確認されます。
この開設届が受理されると、医療法上は正式なクリニックとして認められます。ただし、開設届だけで行えるのは自由診療のみで、保険診療を始めるにはこの後の手続きが必要です。
受理されると副本が交付され、これが次の保険医療機関指定申請に欠かせない書類になります。
厚生局への保険医療機関指定申請(締切と毎月1日指定)
保険診療を行うには、開設届とは別に、地方厚生局へ「保険医療機関指定申請」を行う必要があります。この申請には、保健所から交付された開設届の副本が必要なため、開設届が受理されてからの手続きになります。
特に注意したいのが、指定のタイミングです。保険医療機関の指定は、原則として毎月1日付で行われます。申請の締切は厚生局の事務所ごとに異なりますが、おおむね前月の10日から20日頃に設定されています。
この締切に間に合わないと、指定が翌月1日にずれ込み、保険診療の開始も1か月遅れてしまいます。費用が出ていくこの時期に収入のない期間が延びるのは大きな痛手です。開業地が決まったら、管轄する厚生局の締切を必ず確認し、逆算して準備を進めましょう。
なお、外来医師が多い地域として指定された区域では、開設の6か月前までに事前の届出が求められる場合があります。
医療DX時代に押さえる準備(電子カルテ・オン資)

近年の開業では、従来の準備に加えて、医療DXへの対応も欠かせません。オンライン資格確認や電子カルテなど、開業時に整えておきたいデジタル環境を確認しましょう。
オンライン資格確認・マイナ保険証対応
いまの開業で外せないのが、オンライン資格確認への対応です。これは、マイナンバーカードを健康保険証として使い、その場で保険資格を確認できる仕組みで、2023年4月から原則として導入が義務づけられています。
患者の同意があれば、過去の薬剤情報や特定健診の結果を診療に活用できる利点もあります。導入には専用機器の設置や利用申請の手続きが必要で、申請から運用開始までには一定の時間がかかります。
そのため、開業準備の早い段階で着手しておくことが大切です。オンライン資格確認は、電子処方箋など他の医療DXの仕組みを利用する際の土台にもなります。開院と同時にスムーズに運用できるよう、計画に組み込んでおきましょう。
電子カルテ・予約・オンライン診療の準備
開業を機に、電子カルテや予約システムなどの院内システムも整えておきたいところです。電子カルテは、診療記録を効率的に管理し、会計や請求との連携で業務を軽くします。あわせて、Web予約やオンライン診療、Web問診といった患者との接点をデジタル化する仕組みも、集患や業務効率の面で力を発揮します。予約から問診・オンライン診療・決済までをLINEやWebで一体化できるmarchのような仕組みを活用すれば、開院当初から無理のない運用体制を築けます。
まとめ
クリニックの開業は、構想から開院まで1年〜1年半ほどをかけ、物件・資金・内装・医療機器・採用・集患を並行して進める長期プロジェクトです。
特に、保健所への診療所開設届と厚生局への保険医療機関指定申請は順序と締切が重要で、遅れると保険診療の開始が1か月ずれ込みます。オンライン資格確認や電子カルテの準備も欠かせません。予約やオンライン診療を含めた体制づくりにmarchを役立てられます。
最短10秒、かんたんこの記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属


