電子カルテの導入を検討するうえで、費用の負担をどう抑えるかは大きな関心事ではないでしょうか。国や自治体の補助金をうまく活用できれば、導入のハードルは大きく下がります。
本記事では、電子カルテに使える補助金の全体像、国・自治体の主な制度、申請の基本的な流れと要件、活用するうえでの注意点を、クリニックの視点から整理して解説します。
最短10秒、かんたん電子カルテ導入に使える補助金の全体像
電子カルテの補助金には、いくつかの制度があります。まずは、なぜ補助が用意されているのかという背景と、国と自治体という二つの層からなる全体像をつかんでおきましょう。
補助金が用意されている背景(医療DX)
電子カルテの導入を支援する補助金が手厚く用意されている背景には、国が進める医療DXがあります。国は「医療DX令和ビジョン2030」のもとで、遅くとも2030年にはおおむねすべての医療機関で電子カルテを導入することを目指しています。
全国で診療情報を共有する基盤を機能させるには、各医療機関のデジタル化が前提となるためです。とはいえ、導入には少なくない費用がかかり、それが普及の壁になってきました。
そこで、費用面のハードルを下げて導入を後押しするために、国や自治体がさまざまな補助制度を設けています。補助金は、こうした政策の流れと一体で用意されていると理解しておくと、制度の位置づけが見えやすくなります。
国の制度・自治体の制度の2層構造
電子カルテに使える補助金は、大きく国の制度と自治体の制度という二層に分けて考えると整理しやすくなります。国の制度には、中小企業のITツール導入を支援する補助金や、厚生労働省が管轄する医療分野向けの基金などがあります。
これらは全国の医療機関が対象となり、補助の規模も比較的大きいのが特徴です。一方、自治体の制度は、都道府県や市区町村が地域の実情に応じて独自に設けているもので、国の制度に上乗せして使える場合もあります。
ただし、地域によって有無や内容は大きく異なります。まずは国の制度を軸に検討し、あわせて自院のある地域に独自の補助がないかを確認する、という進め方が現実的です。
主な補助金制度

電子カルテの導入で活用できる代表的な制度を見ていきましょう。中心となるのは国の二つの制度で、診療報酬上の評価とも区別して理解しておくことが大切です。
デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)
クリニックが電子カルテの導入で活用しやすい代表的な制度が、デジタル化・AI導入補助金です。中小企業や小規模事業者のITツール導入を支援する国の補助金で、医療機関も対象に含まれます。
長く「IT導入補助金」の名で親しまれてきましたが、2026年度から「デジタル化・AI導入補助金」へと名称が変わり、AIを活用した業務効率化への支援が強化されました。電子カルテのほか、レセコンや予約システム、AI音声入力ツールなども対象になり得ます。
予約から問診・オンライン診療・決済までを一体化できるmarchのようなITツールも、補助の検討対象になります。補助額や補助率、申請枠は年度や枠によって異なるため、最新の公募要領で確認しましょう。
医療情報化支援基金(電子処方箋・電子カルテ情報共有サービス)
もう一つの柱が、厚生労働省が管轄する医療情報化支援基金です。これは医療分野に特化した支援で、社会保険診療報酬支払基金が運営しています。
オンライン資格確認の導入や、電子処方箋管理サービスの導入、電子カルテ情報の標準化に向けたシステム整備などが補助の対象です。
電子カルテそのものというより、医療DXの基盤となる仕組みの導入を支える制度といえます。電子カルテとあわせて電子処方箋やオンライン資格確認の整備を進める場合に活用できる場面があります。
診療報酬の加算との違い
補助金とあわせて理解しておきたいのが、診療報酬上の加算との違いです。補助金が導入費用そのものを補助するのに対し、加算は医療DXに対応した体制を診療報酬の中で評価するもので、両者は性質が異なります。
なお、体制を評価していた「医療DX推進体制整備加算」は、2026年度の診療報酬改定で廃止され、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの活用を評価する「電子的診療情報連携体制整備加算」へと再編されました。
電子カルテの導入は、こうした加算を算定する前提にもなり得ます。補助金で導入費を抑えつつ、加算で運用が評価される、という両面から医療DXは後押しされています。
自治体・医師会などの補助

国の制度に加えて、地域ごとに独自の支援が用意されている場合があります。見落とすともったいない自治体などの補助について、探し方とあわせて確認しましょう。
都道府県・市区町村の独自補助
国の補助金とは別に、都道府県や市区町村が独自の補助制度を設けていることがあります。たとえば、地域医療の充実や医療DXの推進を目的に、電子カルテや関連システムの導入費の一部を補助するケースです。
国の制度と組み合わせて使える場合もあり、うまく活用すれば負担をさらに軽くできます。ただし、こうした独自補助は地域によって有無や内容、金額が大きく異なります。
医師会が会員向けに情報提供や支援を行っていることもあるため、地域の医師会に問い合わせてみるのも一つの方法です。
制度を探す手順と注意点
自治体の補助制度を探すには、まず自院のある都道府県や市区町村の公式サイトで、医療機関向けの補助やDX関連の支援を確認するのが基本です。
あわせて、国の補助金情報をまとめたポータルサイトも活用すると、見落としを防げます。注意したいのは、こうした制度は募集期間が限られていたり、予算の上限に達すると早期に締め切られたりする点です。
気づいたときには受付が終わっていた、という事態を避けるためにも、こまめに情報を確認し、公募時期からスケジュールを逆算して準備を進めましょう。
補助金申請の基本的な流れと要件

補助金は、申請すれば自動的に受けられるものではありません。事前の準備や決められた手順があります。代表的なデジタル化・AI導入補助金を例に、基本的な流れを確認しましょう。
GビズID・SECURITY ACTIONなどの事前準備
補助金の申請には、いくつかの事前準備が必要です。まず欠かせないのが、行政の電子申請に使う「GビズID」の取得です。デジタル化・AI導入補助金の申請には、このGビズIDのアカウントが求められます。
発行までに一定の時間がかかるため、早めに手続きを始めておくと安心です。次に、情報セキュリティ対策に取り組むことを自己宣言する「SECURITY ACTION」の登録も要件です。
こちらは無料で、短時間で手続きできます。これらは申請の前提条件となるため、補助金を使うと決めたら、まず着手しておきたい準備です。開業前から進められるものもあります。
IT導入支援事業者との共同申請
デジタル化・AI導入補助金は、クリニックが単独で申請する仕組みではありません。国に登録された「IT導入支援事業者」と共同で申請する形が基本です。導入したい電子カルテのベンダーが、この支援事業者として登録されているかを確認しておく必要があります。補助の対象となるITツールも、支援事業者があらかじめ事務局に登録し、審査を通過したものに限られます。検討している電子カルテが補助の対象になるかどうかは、ベンダーや支援事業者に早めに確認しておきましょう。
交付決定前の発注に注意
申請でとりわけ注意したいのが、発注のタイミングです。補助金は、交付が決定する前に発注や契約、支払いを済ませてしまうと、補助の対象外になります。よかれと思って先に契約を進めると、補助を受けられなくなる恐れがあるのです。
必ず交付決定の通知を受けてから、発注や導入に進みましょう。申請から交付決定までは一定の期間がかかるため、導入スケジュールに余裕を持たせることが大切です。
補助金を活用する際の注意点

補助金は心強い制度ですが、活用にあたって押さえておくべき落とし穴もあります。あとで困らないために、特に注意したいポイントを確認しておきましょう。
年度で内容・公募時期が変わる
補助金を活用するうえでまず知っておきたいのが、制度の内容が年度ごとに変わるという点です。補助の対象や金額、補助率、申請枠は、毎年の予算に応じて見直されます。
前年と同じ条件で使えるとは限らないため、必ずその年度の最新の公募要領を確認することが欠かせません。
公募の時期にも注意が必要です。多くの補助金は、年に複数回の締め切りを設けて受け付けています。締め切り直前は申請が集中しやすいため、早めに準備を進めておくと安心です。
古い情報をもとに判断すると、要件を満たせなかったり、申請の機会を逃したりしかねません。
対象経費・併用可否の確認
もう一つ確認しておきたいのが、何が補助の対象になるのかという範囲です。電子カルテ本体は対象でも、データ移行費や一部のオプション、ハードウェアは対象外、というケースもあります。
見積もりのうち、どこまでが補助の対象経費になるのかを事前に把握しておきましょう。また、複数の補助金を同時に使えるか、つまり併用できるかどうかも重要です。同じ経費に対して複数の補助を重ねて受けることは、原則として認められていません。
国の制度と自治体の制度を組み合わせたい場合は、それぞれの併用条件を必ず確認したうえで計画を立てましょう。
まとめ
電子カルテの導入では、デジタル化・AI導入補助金や医療情報化支援基金、自治体独自の補助など複数の制度を活用できます。
申請にはGビズIDやSECURITY ACTION、IT導入支援事業者との共同申請が必要で、交付決定前の発注は対象外になる点に注意しましょう。
制度は年度ごとに内容や公募時期が変わるため、必ず最新の公募要領を確認してください。予約やオンライン診療などのITツールも対象になります。
最短10秒、かんたんこの記事の監修者
監修者尾崎 功治
2014年北京大学医学部卒業後、中国医師免許取得。17年日本へ帰国後、日本医師免許を取得し、順天堂大学付属順天堂医院に勤務。国際診療部に従事後、現マーチクリニック院長。
日本美容皮膚科学会・国際臨床医学会所属


